CUE vintage watchとは、友人の縁 ―それはSNSがあったからこそ― があり、父の持っていたロレックスを修理してもらうところから始まった出会い。
それからインスタグラムを見させてもらっていて、その時からずっと気になっていたのが、エルメスがデザイン、ジャガー・ルクルトに制作依頼をして作られた時計、通称“エトリエ”だった。
ルクルトらしいクラシックなムードに、ドライバーズウォッチの軽快さ、エルメスの遊び心がなんとも心躍る腕時計。
モードにも、カジュアルにも、仕事にも、お出かけにも……。さまざまなシーンで着用することを想起できるその時計は、私のウィッシュリストの候補の上位にいた。
ある日、インスタグラムにジャガー・ルクルトとエルメスの別の時計が掲載されているのを見て、実物が見たい! と思い立ち、CUE vintage watchに向かった。
その時計もとても素敵……と思った目線の先に、キラキラと輝く、白の文字盤の“エトリエ”がショーケースに並んでいた。
実は“エトリエ”も、と思っていたし、黒の文字盤の在庫があるのも知っていた。試着させてもらってよかったら、買っちゃおうかな……という思惑のもの出かけていたことを告白する。
本来欲しいと思っていた、白の文字盤。ピカピカの笑顔でこちらを見ていた。
「たまたま今日出したばかりで」
そしてそのピカピカの“エトリエ”は私の元に来た。あっという間すぎて、店主を狼狽えさせてしまうほど。
そしてこの時計を持って、私はエルメス銀座店へと一目散に向かった。
革ベルトをエルメスにし、このコラボレーションを自分の腕で完成させたいという、野心と共に。
銀座店にしたのは、日本のエルメスで唯一時計技師が常駐しているから。もしその場でベルトが買えたら、すぐに変えてもらえる。
そして、銀座店でエルメスの時計を購入したことがあり、替えベルトやオーダーについて根掘り葉掘り質問していたため、絶対に変えてもらえるという謎の確信があったのである。
しかし、私の接客をしてくれたエルメスの販売員さんは私の持ってきた時計を見て、ずっと訝しげな顔をしていた。
「これは……長くエルメスで勤めておりますが、はじめて拝見します……」
エルメスの識別番号も手彫りです。
※識別番号は加工させていただきました。
この“エトリエ”の魅力は謎が多いところではないだろうか。こうやって裏面にHermés Parisと手彫り刻印されているものもあれば、文字盤にHERMESのロゴが入っているものもあったり、刻印が全くなかったり……。
しかし、この魅力は歴戦の販売員をただただ困惑させるだけの、厄介なチャームポイントになった。
エルメスの製品でないとベルトを売ることができないこと、フランス本国に確認を入れないといけないこと、そのため一時預かること……。
骨を折る仕事をすることを丁寧に伝えられるという初めての体験。2023年のエルメス銀座店の珍事件ベスト10には入る自信があるほど、曇った表情で見送られた。
※後篇へ続きます