再度エルメス銀座店を訪れると、曇った顔ではなく、眉間がパァっと開いた晴れやかな笑顔で迎えてくれた。
結果的に、無事ベルトを変えることができた。
エルメス本国に記録がちゃんと残っており、1960年に販売されていた時計ということが判明した。
そしてとても運の良いことに、スペシャルオーダーしなくとも、私が以前購入した、”ナンタケット”というエルメスの現行品の時計と同じベルト幅でいけそうだということ。
さらに運よく、黒のヴォー・バレニアというレザー、私の大好きなドゥブルトゥールという二重巻きができるベルトの在庫が残っており、その時の気分にピッタリはまった。
店員さんも、これしかありませんね! と太鼓判だった。
見事、私の思惑通りのコラボレーションが完成したのである。
先の店員さんは、この時計をはじめて預かった時の困惑を素直に吐露してくれた。
「はじめは私も見たことがない時計で、難しいというか無理だと思っていました。しかし販売の履歴が残っていることで、私もこの時計を通じて改めてエルメスの歴史の深さを感じられましたね。」
と、とても感慨深げに自身の勤めるブランドへの敬意を新たにしたこと、銀座店に在住する時計技師の方もはじめて見たそうで、とても興味を寄せてくれたことをお話ししてくださった。1カスタマーとして、これ以上の体験はもうできないかもしれない。
ラグジュアリーブランドの真価や、スマートウォッチの登場による腕時計のあり方など、今、機械式時計は難しい立ち位置にいるのではないかと思う。
ラグジュアリーブランド、高級時計、ヴィンテージウォッチの購入の理由のひとつに上がる、投資(そしてほんの少しあるマウント)。
価値は右肩上がりに上昇しているものの、昨今の業界を少し寂しく感じてしまうのは、私がライトな時計好きで単純だからだろうか。
しかし、“エトリエ”の購入を通じて、ブランドの価値や受け継がれること、1960年の販売記録が残されていることの尊さ。
機械式時計の長い息吹を感じることができ、改めてヴィンテージウォッチの魅力のほんの一旦に触れることができた。
1本の時計が、63年の歴史を経て私の元に辿り着き、気づきを与えてくれる。
ブランドの価値、機械式時計のかくあるべき意味を教えてくれた私の素晴らしい買い物体験だった。
こうして並べるとほんのり似ているのも、エルメスのデザインの根底に軸があることを思い知らされる。そして私自信の好みも。
※今回、エルメスの刻印と識別番号があったことで、販売履歴が残っており、ベルトの変更が可能でした。おそらくエルメスの刻印がない場合、エルメスでのベルト交換は不可となります。またこちらの時計はヴィンテージウォッチのため、エルメス及び、ジャガー・ルクルトへの問合せはお控えください。